理解不能な動機と主人公の危うい共感

新年を祝う喧騒を切り裂く、姿なき狙撃手。
映画『キャッチ・ア・キラー』は、
圧倒的な狙撃能力を持つ殺人犯と、
心に傷を抱えた女性警察官の追走劇です。
しかし、本作を単なる勧善懲悪のサスペンスだと思って観ると、
その結末に呆然とすることでしょう。犯人のあまりに幼稚な動機、
そして彼に歩み寄ろうとする主人公への「わけのわからなさ」。
観終わった後、「たったそれだけのことで、これだけの命を……」
というやりきれない憤りが残る、
本作のダークで不条理な魅力をレビューします。
映画『キャッチ・ア・キラー』の作品情報とあらすじ

基本情報
- 制作年:2023年
- 監督:ダミアン・ジフロン
- 上映時間:119分
あらすじ
新年を迎えたばかりのボルチモア。
花火の音に紛れ、高層ビルの一室から
無差別狙撃が開始される。
眉間を正確に撃ち抜くその腕前は、まさに精密機械。
一瞬にして29人の命を奪った犯人は、
証拠を残さず部屋を爆破して逃走した。
現場に駆けつけた若き警官エレノアは、混乱する群衆の中で、
犯人の心理を突くような冷静な視点を見せる。
その異質な才能に目を留めたFBI捜査官ラムジーは、
彼女を捜査員として抜擢するのだが……。
予告
この映画の3つの見どころとまとめ
この映画の3つの見どころ
- 「神業」が浪費される、身勝手極まる殺人動機
- 現場を置き去りにする「権力」という不条理
- 主人公への違和感:なぜその犯人に「共感」できるのか?
「神業」が浪費される、身勝手極まる殺人動機
本作で最も印象に残るのは、犯人ディーンの圧倒的な狙撃能力です。
200m先から確実に仕留めるその技術は、
本来なら国家レベルで重宝されるはずのもの。
しかし、彼が引き金を引いた理由は
「街が明るくて星が見えないから」
「静かにしてほしいのに周りが騒ぐから」という、
呆れるほど自分勝手で幼稚な不満でした。
「たったそれだけのことで、これだけの人間を?」
――怒りを通り越して脱力感すら覚えるこの動機の「軽さ」こそが、
本作で最も恐ろしく、理解不能なポイントです。
現場を置き去りにする「権力」という不条理
捜査が進む一方で、描かれるのはFBIや警察上層部の醜い権力争いです。
世論やメンツを気にするあまり、現場の捜査員が危険にさらされ、
結果として有能な人間が命を落とす。
このダークな組織論は、犯人の異常性とはまた別の
「救いようのない暗さ」を物語に与えています。
特にラムジーが組織の歪みに飲み込まれていく様は、
権力というものの虚しさを痛感させます。
主人公への違和感:なぜその犯人に「共感」できるのか?
主人公エレノアは「犯人の気持ちがわかる」と言い、
彼との対話を試みます。しかし、観ている側からすれば、
多くの同僚や市民を殺した男に寄り添う彼女の姿は、不気味でしかありません。
彼女の「孤独」と犯人の「断絶」が
共鳴しているという描写ですが、正直、その共通点は分かりづらく、
描写不足を感じる部分でもありました。
ラストで犯人が彼女を撃たなかった理由も、
説得力に欠ける印象を拭えません。
この「主人公さえもわけがわからない」という感覚が、
本作の鑑賞後感をさらに重く、複雑なものにしています。
まとめ

『キャッチ・ア・キラー』は、犯人のミステリアスな正体を
丁寧に追い詰めていくプロセスを期待すると、
肩透かしを食らうかもしれません。
慎重だったはずの犯人が急に脇の甘い行動を見せたり、
伏線と思われた黒人捜査官の存在が
回収されなかったりと、脚本上のツッコミどころも・・・。
しかし、あえて何も言いたくないほどの
憎しみしか湧かない犯人と、
その「闇」を理解しようとする主人公。
この埋まらない溝こそが、不条理な暴力が蔓延する
現代社会の写し鏡のようでもあります。
スカッとしたい時にはおすすめしませんが、
人間の理解不能な深淵を覗きたい夜には、
これ以上ないほど「モヤモヤ」させてくれる一作です。
キャスト紹介

シャイリーン・ウッドリー(エレノア役)
心に闇を抱える警官。
犯人にシンクロしすぎる危うさを、
繊細に(あるいは不気味に)演じています。
ベン・メンデルゾーン(ラムジー役)
組織と現場の板挟みになるFBI捜査官。
主人公を抜擢したり、有能さを出したりするが
組織内の権力争いに注力しすぎる面も。
ラルフ・アイネソン(ディーン役)
姿なき殺人鬼。あの低い声で語られる自分勝手な理屈が、
観る者の神経を逆撫でします。
登場したときは、イメージした人物と違ってた。