
映画『空白』を観終わったあと、
胸にズシリと残る重苦しさ。
万引きを疑われて逃げた挙句に事故を起こした娘、
保身と勝手な納得で幕を引く父親、
傍観者ぶって正論を吐く元妻……。
そんな身勝手な大人たちの
ドロドロしたエゴの渦に巻き込まれ、
一番の被害者となったのは誰なのか。
映画『空白』について、
今回は少し考察的な内容の
レビューとなっています。
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『空白』予告映像
作品情報・あらすじ
作品情報
- 制作年:2021年
- 監督:吉田恵輔
- 上映時間:107分
あらすじ
とある地方都市。
漁師として働く気の荒い父親・充と、
中学生の娘・花音は、
二人きりで暮らしていた。
不器用で威圧的な充との関係に、
花音は息苦しさを感じ、心を閉ざしている。
ある日、地元のスーパー「アオヤギ」の
店長・青柳直人は、
店内で万引きの疑いのある
花音の姿を発見し、声をかける。
動揺した花音は、
青柳の制止を振り切って店から猛ダッシュで逃走。
青柳は必死に彼女を追いかけるが、
焦った花音は道路に飛び出してしまう。
そこへ運悪く
乗用車とトラックが立て続けに進入し、
花音は車に跳ね飛ばされてしまうのだった――。
『空白』はどこで見れる?
| 配信サービス | 配信状況 | 無料期間 |
|---|---|---|
| Prime Video | 見放題 | 30日間 |
| U-NEXT | レンタル | 31日間 |
| NETFLIX | なし | なし |
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※配信状況は定期的に更新されます。
映画『空白』をおすすめしたい人!
この映画をおすすめしたい人
- 理不尽なクレーマーや世間の目に晒されたことがある「サービス業に携わる人」
- 「加害者と被害者の境界線」にある、割り切れない人間のリアルを観たい人
- 物事の表面的な描写に騙されず、問題点を深くえぐって考察したい人
『空白』ネタバレレビュー
ネタバレありレビューだよ
ここからは、映画『空白』をネタバレありでレビュー!
ネタバレが嫌な方は、映画を見てからのぞいてね。
今回はふんだんに私の考えを盛り込んだレビューになります。
人それぞれ考えは違うと思うので、
1つの考えとして読んでもらえると幸いです。
登場人物それぞれの空白が何かを考えてみました。
娘を事故で亡くした父、添田充の空白
娘を事故で亡くした父親・添田充の空白は、
娘のことを何も知らなかったことだと思います。
映画の終盤では、
娘の描いた絵を見たり、
漫画を読んだりしながら、
少しでも娘を理解しようとする姿が描かれます。
それは同時に、
生前の娘と向き合えていなかったことへの
後悔にも見えました。
もし娘にもっと関心を持ち、
愛情を言葉や態度で伝えていたら、
あの事故は起きなかったかもしれない。
もちろん断言はできません。
それでも私は、
この悲劇の根っこには、
父親と娘の間にあった大きな溝があったように感じました。
だからこそ、
娘を失ったあとに見せる激しい怒りには、
少し違和感を覚えます。
あれほど悲しみ、
あれほど怒れるのであれば、
なぜ生前にもっと娘と向き合えなかったのだろうか。
そんな思いが最後まで消えませんでした。
さらに印象的だったのは、
娘の部屋から万引きを疑わせる形跡が見つかったあとです。
その事実を知ったことで、
父親の中にも少なからず変化が生まれたように見えます。
しかし、
店長や事故に巻き込まれた家族へ
謝罪することはありませんでした。
元妻には謝罪する一方で、
自ら傷つけた相手には何も伝えない。
その姿を見ていると、
娘を理解できなかったことへの後悔には共感できても、
それ以外の部分では最後まで共感することができませんでした。
父親もまた、
自分自身の感情だけで周囲を見ていた人物だったように思います。
添田の元妻、松本翔子の空白
正直なところ、
松本翔子の空白が何だったのか、
私は最後までよく分かりませんでした。
もちろん、
娘を事故で失ったことによる喪失感は
あったはずです。
それは間違いないと思います。
ただ、映画の中で描かれる彼女は、
どこか一歩引いた場所から
この出来事を見ているようにも感じました。
事故後の添田に対して、
彼女は何度も苦言を呈します。
確かに添田の行動は行き過ぎていましたし、
批判されるのも当然です。
しかし私は、
その場面を見るたびに
「なぜ離婚したときに娘を引き取らなかったのだろう」
という疑問が頭をよぎりました。
もし母親である彼女が引き取っていたら、
娘の人生は変わっていたかもしれない。
もちろん、
そんなことは誰にも分かりません。
それでも、
添田だけを責める姿には、
どこか違和感を覚えてしまいました。
そして映画の終盤、
彼女は新しい命を迎えようとしています。
娘を失ったことで生まれた空白は、
新しい家族によって少しずつ埋まっていくのかもしれません。
ただ、その姿を見ていても、
私は最後まで彼女の本心を掴むことができませんでした。
娘を失った母親として苦しんでいるはずなのに、
どこか傍観者にも見えてしまう。
だからこそ、
松本翔子という人物の空白は、
私にとって一番理解の難しいものでした。
スーパーの従業員、草加部麻子の空白
草加部麻子の空白は、
店長から
「あなたの正しさは迷惑だ」
と拒絶された瞬間に生まれたものではないかと思います。
彼女は事故後、
店長を助けようとしているように見えます。
しかしその行動は、
本当に店長のためだったのでしょうか。
むしろ彼女にとって大切だったのは、
「人のために行動する自分」
そのものだったようにも見えます。
ボランティア活動に熱心で、
困っている人を放っておけない。
そんな生き方を続けてきた彼女にとって、
「あなたの正しさは迷惑だ」
という言葉は、
人生そのものを否定されるような一言だったはずです。
だからこそ彼女は壊れてしまった。
店長を失ったことではなく、
自分が信じていた価値観そのものが
崩れてしまった。
その結果、
「私の人生は何だったのだろう」
という巨大な空白が
生まれてしまったように感じました。
ただ個人的には、
終盤で店長への恋愛感情のような描写が
入ったことには少し違和感がありました。
もし恋愛感情がなかったとしたら、
草加部は最後まで
「善意だと信じている行動で、
相手を追い詰めてしまう人」
として描かれたはずです。
そのほうが、
彼女の怖さや狂気は
より際立っていたようにも思います。
だから私は、
恋愛感情が見え始めた瞬間に、
草加部という人物が
少し分かりやすくなり過ぎたように感じました。
最後まで
「悪意はないのに恐ろしい人」
として描いてほしかった、
というのが正直な感想です。
加害者(女性)の母親の「空白」
映画の中で、最も誠実に現実と向き合っていたのは、
事故を起こした女性と、その母親だったように思います。
娘を事故の加害者にしてしまったこと。
そして、その娘を自殺という形で失ってしまったこと。
母親の中には、決して埋まることのない大きな空白が
残ってしまったはずです。
しかも、この親子は事件の発端を作ったわけではありません。
突然飛び出してきた少女をはねてしまった。
もちろん事故を起こした以上、
責任が全くないとは言えません。
それでも私は、
かなり避けることが難しい事故だったように感じました。
それなのに、この親子は逃げません。
娘は苦しみ続け、
母親もまた被害者遺族へ謝罪に向かいます。
本来であれば、
「なぜうちの娘ばかり責められるのか」
という怒りがあっても不思議ではありません。
むしろ、その感情の方が自然だと思います。
それでも母親は怒りではなく、
娘の思いを優先し続けました。
葬儀の場で語った
「娘を許してほしい」
という言葉。
あれは単なる謝罪ではなく、
自殺してしまった娘の無念を晴らしたいという
母親としての強い願いだったと思います。
娘は最後まで苦しみ続け、
添田に許してもらえないまま亡くなってしまった。
だから母親は、
自分の怒りや悔しさをぶつけるのではなく、
娘の代わりに頭を下げ、
娘の代わりに許しを求めた。
私にはそんなふうに見えました。
一方で、少し違和感もありました。
娘を失い、
人生を壊されてもおかしくないほどの出来事なのに、
母親個人の怒りや悔しさが
ほとんど描かれていないからです。
その姿は強さにも見えるし、
同時に少し現実離れしているようにも見えました。
また個人的には、
もし現実に同じ事故が起きた場合、
飛び出してきた少女だけでなく、
後続のトラックに対しても
怒りや疑問が向くのではないかと思います。
だからこそ、
その部分がほとんど描かれなかったことも
少し気になりました。
それでも、この映画の中で最も理不尽な立場に置かれたのは、
この親子だったと思います。
何かを間違えたわけでもない。
それなのに、
誰よりも重い十字架を背負うことになってしまった。
私は、この親子こそが
『空白』における最大の被害者だったと感じました。
店長の「空白」
店長の空白は、
「何が正しかったのか分からなくなってしまったこと」
だと思います。
万引きの疑いがある少女を追いかけたことは正しかったのか。
追いかけなければ事故は起きなかったのか。
逆に追いかけなければ、
店長としての責任を果たしたことになったのか。
過去を振り返っても答えは出ません。
さらに店長を苦しめるのは、
未来の答えも見えないことです。
事故のきっかけを作ってしまった自分は、
何を償えばいいのか。
どこまで責任を負うべきなのか。
そして、この先どう生きていけばいいのか。
そのどれにも答えがない。
店長は職を失い、
世間から激しい批判を浴びながら、
過去にも未来にも正解を見つけられないまま、
暗闇の中を彷徨い続けます。
だからこそ、
最後にスーパーの常連だった男の子が
「弁当、好きだった。頑張って」
と声をかけてくれたシーンが
とても印象に残りました。
あの言葉は、
「あの時の行動は正しかった」
と店長を肯定するものではありません。
ですが、
「あなたがやってきたことには意味があった」
という事実を伝える言葉だったように思います。
店長の人生で空白になっていた部分に、
自分が誰かの役に立っていたという小さな光が
差し込んだ瞬間でした。
サービス業をやっていると、
理不尽なクレームや世間の批判で
心が折れそうになることがあります。
一生懸命やっていても、
悪い部分ばかりが目につき、
自分のやっていることが本当に正しいのか
分からなくなることもあります。
それでも、
たった一人の利用者からの
「ありがとう」
という言葉に救われることがある。
あのシーンは、
そんなサービス業の現実を象徴しているようで、
個人的にとても共感できる場面でした。
もちろん、
店長ほど過酷な経験をしたわけではありません。
それでも、
この映画の中で一番感情移入したのは
間違いなく店長でした。
空白についてじっくり考察したいかたはこちらから▼
まとめ
映画『空白』は、
世間のレビューでよく語られるような
「誰もが少しずつ悪く、
誰もが傷ついている悲劇」
として見ることもできる作品だと思います。
ただ、私には少し違って見えました。
真実を知りながらも、
自分の中だけで納得し、
店長や事故の加害者家族に謝罪しなかった父親。
離れた場所から添田を諭しながらも、
どこか傍観者のように見えてしまった元妻。
善意を信じながら、
結果として店長を追い詰めてしまった草加部。
そして、
何一つ悪いことをしていないにもかかわらず、
娘を失い、それでも頭を下げ続けた加害者の親子。
私には、
この親子こそが本作で最も理不尽な立場に置かれた
被害者のように感じられました。
また、全方位から非難されながらも、
何が正しかったのか分からないまま苦しみ続けた店長には、
強く感情移入してしまいました。
特にラストで、
常連の男の子から
「弁当、好きだった。頑張って」
と声をかけられる場面。
あの涙には、
サービス業に携わる人間だからこそ感じる
救いがあったように思います。
もっとも、
ここまで書いてきたことは、
あくまで私個人の感想です。
私の価値観や経験を通して見た、
一つの解釈に過ぎません。
しかし、
この映画の本当の凄さはそこにあるのだと思います。
観る人の立場や人生経験、
そして誰に感情移入するかによって、
父親の見え方も、
元妻の見え方も、
店長の見え方も変わる。
誰が悪かったのか。
誰が一番の被害者だったのか。
その答えは、
観る人によってまったく違うものになるでしょう。
タイトルである『空白』にも、
分かりやすい正解は用意されていません。
登場人物たちが抱える後悔や怒り、
善意やエゴ、不条理さを前にして、
観客それぞれが自分なりの答えを探していく。
だからこそ、
この映画は観終わったあとも頭から離れません。
白黒はっきりつかないからこそ考え続けてしまう。
そして考えれば考えるほど、
新しい解釈が生まれてくる。
この「答えのない巨大な空白」と向き合い、
自分だけの答えを探し続けられることこそが、
映画『空白』の持つ、
唯一無二の魅力なのだと思います。
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